テクニカル分析の科学的アプローチ

テクニカルアナリスト2次試験用テキスト(鈴木担当分)を公開します.
時系列モデル・機械学習・最適化問題・統計的仮説検定など,当研究室で使うスキルをコンパクトにまとめたつもりです.
金融市場に興味が無くても役立つと思いますので,ぜひ参考にしてください(付録も参考になると思います).
ですが,第1章の冒頭で述べるように
投資理論は,経済学・心理学・物理学・数学・統計学・コンピュータ科学などを取り巻く
「総合科学」であり,単に投機とは一線を画す深さがある
ので,ぜひ興味を持って頂けると嬉しいです.



[H28.4.1公開 (第2版)]
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以下の使用上の注意を守ってご利用ください.
・著作権上,研究室以外の人に見せたり配布しないでください.
・144ページもカラー印刷するとプリンタートナーが非常に消耗しますので,積極的に「コピー機」を使ってください.
・プログラミングゼミや新研究テーマに関連しますので,特に新メンバーはよく読んでください.



[H28.1.4公開 (第1版)]
まだ印刷前の「ゲラ刷り」です.もし間違いなどありましたら,ぜひ教えてください.
(注) 印刷しても構いませんが,研究室以外の人に見せたり配布しないでください.

[第1章] テクニカル分析への逆風
テクニカル分析やファンダメンタルズ分析など,金融市場の未来予想を完全に否定する仮説として, 効率的市場仮説およびランダムウォーク理論を紹介する. またバックテストの結果を過大評価してしまう原因として, オーバーフィッティング(過学習)とデータマイニングバイアス(まぐれ当たり)の問題を紹介する.

[第2章] 逆風への反論
実際の価格データを解析すると,効率的市場仮説と不整合な現象(アノマリー)が多数発見されることを紹介する. さらにこのアノマリーの出現理由を,行動経済学および物理学の観点から解釈する. なお,フラクタルという概念についても詳しく解説する.

[第3章] アノマリーを再現する時系列モデル
時系列変動に関するアノマリーとして,価格変動の時間記憶性がある.これを重回帰式で表現することで,将来の価格やリスクを予測できる. さらにモンテカルロシミュレーションによる多ステップ予測や,時系列モデルの妥当性を調べる残差分析についても紹介する. なお簡単に,ポートフォリオ理論やオプション戦略への応用にも触れる.

[第4章] 機械的にアノマリーを学習する数理モデル
計算機性能の発達に伴い,アノマリーの発見から予測まで,全てコンピュータに一任することができる. そのような機械学習アルゴリズムの代表例をいくつか紹介する.なお前章の時系列モデルは重回帰式に基づくので,時系列データの定常性および線形性を仮定していた. しかし機械学習では,そのような仮定や制約は一切不要なので,非常にパワフルな予測ツールになる. しかし幾つかの注意点(オーバーフィッティングやバイアスバリアンス)に気をつけなければ,誤った予測モデルを組んでしまう. そこでこれらの緩和策として,汎化誤差の評価法や集団学習法の適用について解説する.

[第5章] テクニカル戦略の最適化
テクニカル指標には,順張り型・逆張り型・出来高型など様々なタイプがあり,これらを組み合わせてダマシの少ない戦略を構築することが重要である. しかしその組み合わせ方は莫大であり,さらにローカルミニマム問題が発生するので,たとえコンピュータを用いても最適な組み合わせを見つけるのは難しい. これは工学において「組み合わせ最適化問題」と呼ばれ,準最適解を現実的な時間で発見する探索アルゴリズムがいくつか開発されている. 本章ではその代表例として,焼きなまし法や遺伝的アルゴリズムを紹介する. なお,近年高い注目を集めているディープラーニング(深層学習)についても解説する.

[第6章] テクニカル戦略の妥当性の科学的検証法
IT技術の発達に伴いシステムトレードが普及する中,人々はその売買戦略の妥当性を正しく評価できているだろうか? VIII-1章の指摘のように,オーバーフィッティング(過学習)やデータマイニングバイアス(まぐれ当たり)がこの評価を狂わせる原因となるが,前者は汎化誤差を検証することで緩和できる(VIII-4章). そこで本章では,後者のデータマイニングバイアスに着眼する.まず,モンテカルロシミュレーションによってまぐれ当たりをコンピュータ上で再現し,過大評価を引き起こすメカニズムを議論する. 次に,まぐれ当たりを考慮した帰無仮説を設定することで,データマイニングバイアスを受けない統計的仮説検定法を紹介する. これらによって妥当性を確認できるテクニカル戦略が存在するなら,それ自体が効率的市場仮説の反証となり,テクニカル分析の有用性を科学的に主張できる.

[第7章] 付録
テクニカル分析や金融工学に関連する数学項目のうち,重要なものを幾つか紹介する.



[目次]

[第1章] テクニカル分析への逆風
(1) 効率的市場仮説
(2) ランダムウォーク理論
(3) オーバーフィッティングとデータマイニングバイアス

[第2章] 逆風への反論
(1) 実データ解析によるアノマリーの発見
(2) 行動経済学による見解
(3) 物理学による見解
I. イジング模型
II. 砂山モデル(自己組織化臨界現象)
III. フラクタルについて
IV. 金融市場におけるカオスの可能性

[第3章] アノマリーを再現する時系列モデル
(1) ARモデル(自己回帰モデル)
(2) ARMAモデル(自己回帰移動平均モデル)
(3) ARIMAモデル(自己回帰和分移動平均モデル)
(4) ARCHモデル(自己回帰分散不均一モデル)
(5) GARCHモデル(一般化自己回帰分散不均一モデル)
(6) ARMA-GARCHモデル
(7) 予測への応用
(8) モンテカルロシミュレーションによる長期予測
(9) 残差分析(モデルの適正診断)

[第4章] 機械的にアノマリーを学習する数理モデル
(1) 予測モデル
(2) k近傍法
(3) ニューラルネットワーク
(4) ニューラルネットワークの学習
(5) 学習誤差と汎化誤差
(6) バイアスとバリアンス
(7) 集団学習法

[第5章] テクニカル戦略の最適化
(1) 予測モデルからテクニカル戦略へ
(2) 探索アルゴリズム
(3) トレーディングにおける評価指標
(4) 特徴選択によるモデルの簡略化

[第6章] テクニカル戦略の妥当性の科学的検証法
(1) まぐれ当たりによる過大評価
(2) データマイニングによって優秀な戦略を選べるのか?
(3) フォワードテストによってデータマイニングバイアスを回避できるか?
(4) テクニカル売買戦略の妥当性の検証
(5) フォワードテストで行うブートストラップ検定
(6) フォワードテストを行わないブートストラップ検定
(7) 動的に最適化されるテクニカル戦略の検証

[第7章] 付録
(1) テイラー展開
(2) ベイズの定理・ベイズ更新
(3) 基本統計量(平均値・期待値・分散)
(4) 多変量データの範囲調整(標準化・正規化)
(5) 多変量データの関連性(共分散・相関係数・相互情報量・移動エントロピー)
(6) 過去との関連性(自己相関関数・相互相関関数)
(7) 定常性と非定常性
(8) 関数の最大化・最小化問題
(9) 単回帰・重回帰分析
(10) 主成分分析
(11) 因子分析
(12) フーリエ解析
(13) ウェーブレット解析



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